19世紀半ば、イギリスでは産業革命による機械産業の発展や科学技術の進歩により、従来の手工業から機械産業による資本主義の台頭という大きな時代の転換点を迎えました。 工芸家ウィリアム・モリス(1834-1896)は、この機械化された生産体制や分業制度が、従来の手工業における人間の創造性をうばい人間性を疎外しているとし、デザイン水準を「クラフトマンシップ」によるものに回復しようとして、「アート&クラフト運動」を始めました。モリスによれば、産業革命以降の社会は、「機械産業」、「分業」、「画一性」、「標準化」、「人間疎外」、「企業家」、「労働者」、「金銭的利益」、「製品の粗悪さ」、「人間性の低落」、「生活の質の低下」などのことばによって象徴される。反面「クラフトマンシップ」による社会は、「小さな仕事場」、「金銭外のこと」、「自然の豊かさ」、「芸術」などの対立的ことばによって表現されるとしています。モリスは「クラフトマンシップ」による工房を作り、優美で自然的な美しい工芸品を多く制作し、「アート&クラフト運動」はデザイン運動としての広がりを見せるとともに、資本主義を批判する社会運動としての拡大も果たしました。 このようにモリスの時代には、産業革命による負の遺産としての人間性疎外が問題になりましたが、「画一性」、「標準化」、 「人間疎外」、「企業家」、「労働者」、「金銭的利益」、「人間性の低落」、「生活の質の低下」などの言葉は、 なんと今日の日本の状況にぴったり合うことでしょう。 そして、このような状況をもたらしたのが、小泉内閣発足以来の拝金主義と 稚拙な政治の積み重ねによるものであることは言うまでもありません。
「21世紀のアート&クラフト運動」、 まさに今日本が必要とする運動ではないでしょうか?
小泉内閣の負の遺産としての拝金主義が今ゆり戻しにより排除されつつあります。 また、安定感が売り物の老獪福田内閣の誕生や団塊世代の一斉定年退職により、時代は一気に高齢感性社会に突入しています。このことが、拝金主義や格差社会の進展の反動として、時代を今急激に復古回帰に向かわせています。「古き良き日本を取り戻せ」、「国家の品格」、「○○の品格」、「礼節を重んじる」…このこと自体は悪いことではありませんが、それは一面で年寄りの懐古趣味でもあります。この荒廃した社会を立て直すには、過去に戻るのではなく、やはり未来へ向かって希望をもって前進することが必要です。 そして、それには新しい未来のビジョンが提示されなければなりません。 しかし、そう簡単に新しいビジョンなんて見えてこない。まずその第1歩として、新しい時代を予感させるカウンター・カルチャーをみんなで作ることではないでしょうか? 通常カウンター・カルチャーというと体制批判、アナーキーな世界、ヒッピー文化のように捉えられますが、それだけではなく、「新しい時代を予感させる感性」として作り上げていく…こんなムーブメントを起こしていくこと。 今私たちに必要なのは、このような意識ではないでしょうか?(2001年8月)
〔参考文献〕以下のサイトを参考にさせていただいております。
・http://www.u-air.net/workshop/board/teshima2000.htm
ウィリアム・モリスとクラフトマンシップ
ー機会時代のモリス思想と実践ー 手島咲子
・http://www.daniel.co.jp/products/stickley/history03.html
アート&クラフト運動とスティックレィの発祥
・http://www.ntticc.or.jp/pub/ic_mag/ic017/books50/05.html